僕の音楽史(199)
パット・マルティーノの健康状態の悪化は一時的なものだったようで、4ヶ月後の96年3月、思ったより早く来日公演は実現しました。
日にちはもちろん記憶はなかったのですが、来日公演時のジャズライフ特集記事の切り抜きを見ると、東京公演は3月7・8・9日の3日間だったようです。場所は当初と一緒で渋谷のON AIR EASTです。もちろん全公演チケットを買っていました。1日目はひとりで、2日目はかみさんと5歳の長男と3人で、そして3日目は当時のバンド仲間宇山くんを誘って見に行きました。
とにかく、僕にとってパットはレコードやビデオの中の人、目の前でギターを弾いている姿が見れるだけで、もう僕は満足でした。レコードを擦り切れるまで聴き、コピーし、そんな人が数メートル先に存在する、もうそれだけで涙がこみ上げてくるわけです。
演奏が始まる前にステージ上の機材を確認します。何とジャズ・ギタリストがもっとも苦手とするJC-120が1台置いてあるだけ、足元には何一つありません。「JC-120に直結か!」まさにシンプルの極みでした。
演奏時間が近づくに連れ、こんな思いが込み上げてきました。「病に倒れ、記憶を無くし、血の滲むようなリハビリを経て復活、全盛時代の演奏なんて望まない、無理しないでリラックスして演奏をしてほしい」と。そんな僕の気持ちは1曲目のほんの数秒で吹っ飛ぶこととなるのです。そこにいた彼は「全盛期の彼そのもの」でした。
会場が暗くなり、他のメンバーが先に出てきます。その後、ギターを抱えて彼が登場します。割れんばかりの拍手に会場は包まれます。僕ももう手が痛くなるくらい拍手しましたw。数秒後に、いたるところで何故かどよめきが起こります。
「なんだ、なんだ??え、ま、まじかよ!」
どよめきの理由がわかりました。彼が抱えてるギターです。なんと「伝説のジャズギタリスト」が真っ赤の奇妙な形をしたソリッド・ギターを持って登場したからでした。もう卒倒しそうでしたw。
