僕の音楽史(150)
部室入り口のドアが開いて大きな男性が入って来ました。この方が僕がその後、幾たびか音楽活動を共にすることになる素晴らしいドラマーの西尾さんでした。
彼との出会いは僕にとって衝撃的で、今でもはっきりと覚えています。
予定のドラマーが約束の時間に来なかったため、練習を切り上げて帰り仕度をしている中、彼は部室に置いてある自分のドラムパーツをたまたま取りに来たのでした。もちろん僕は彼とは面識がありませんでしたので、ペコっと頭を下げただけですが、ピアノの一色君が敬語を使って何か会話している様子で、彼は東工大ジャズ研のメンバーであり、一色君の先輩であることが何と無く分かりました。
「ドラマーでしたか?今日ドラマーが来なかったんで、せっかくだからちょっとだけ叩いていただけませんか?」
図々しくお願いしてみました。
「いいっすよ」
帰り仕度を途中でやめ、楽器をセッティングして再び演奏の準備を始めました。わざわざ来たのだし、せっかくだから思い切り演奏して、すっきりした気持ちで練習を終わりたいと思いました。
ミディアム・スィング、確かグレイター・ラブを演奏しました。演奏しながら、もう震えが止まりませんでした。
今まで一緒に演奏してきたドラマーと彼はまるで違っていました。正に「ジャズ・ドラマー」、そして「コンボ(ビッグバンドではなく)のドラマー」でした。そして、うまく言葉で表現できませんが、これほどまで「ジャズ」を感じさせてくれたドラマーと一緒に演奏したことは今まで一度もありませんでした。180㎝以上の長身の体格通りのパワフルなドラミングにノックアウトされてしまいました。
その場は一緒に数曲演奏しただけで終わりました。ただ、家に帰っても彼のプレーがどうしても忘れられませんでした。後に彼のことを一色君に聞きました。名前は西尾研一、年齢は多分僕と同じくらい、東工大のジャズ研出身で、某有名企業のサラリーマンやりながら今も音楽活動を継続して行なっている等々。
一色君から西尾さんの連絡先を聞いて、数日後に彼に電話しました。いくつかのバンドを掛け持ちで叩いているものの、固定で定期的にリハをやっているバンドは今はないということで、快く引く受けてくれました。
これでドラマーが決まりました。後はベーシストを決めるだけです。
