僕の音楽史(79)
「えっ?絶対音感?何それ?」
僕はこの時まで「絶対音感(ある音を単独に聴いたときに、その音の高さ(音高)を記憶に基づいて絶対的に認識する能力)」という能力がこの世にあることを知りませんでしたし、内容を聞いても簡単に信じることができませんでした。音というのは時報、音叉やピアノを使って合わせるものとずっと思っていました。
「秋山一将」さんを徹底的にコピーして研究しようと既に発売済みであったセカンドアルバム「ビヨンド・ザ・ドア」を購入しました。このアルバムはファーストと違い、バンド感を強く打ち出していて、キーボードの笹路正徳さんやベースの濱瀬元彦さんが参加していて日本のフュージョンバンドの中では随分とジャズ寄りで硬派なサウンドで、同じく夢中になりました。秋山さんのギターは相変わらずジャジーで、骨太で、ブルージーで僕の好みのサウンドが全て凝縮されていました。

ファーストに収録され、当時の秋山さんの代表曲「アイ・ビリーブ・イン・ユー」での彼のアドリブ演奏をコピーするために、コード進行を確認する必要がありました。この曲はジャズ・スタンダードのオーソドックスな進行ですから、今なら音感の悪い僕でも楽器があれば簡単に取れるレベルのものですが、ジャズ・スタンダードの進行も全く分からない当時の自分にはコピーは不可能でした。

ライトのレギュラー練習が始まる前に部室にいたピアノ・プレイヤーのE(3)年の「寺さん」に恐る恐る声を掛けます。当時はレギュラー・メンバーの中でもD(2)年の方々はジュニア・バンドの練習にも参加していましたから、C(1)年の僕でも気軽に話しかける機会もありましたが、E年、F年の先輩には話す機会も少なく非常に声をかけづらい感じは正直ありました。
「すみません、寺さんは音を聴いたらコード進行がわかるって聞いたんですが、コード進行を取ってもらえますか?」
と勇気をもって質問します。いきなりそんなことを後輩から話しかけられて少しびっくりした様子でした。
「いいよ、部室にラジカセあるからもってこいよ。あと五線紙も・・・」
僕はカセットテープをラジカセにセットし、曲の頭出しをして寺さんに渡しました。
なんと、再生をしながら、いきなりコード進行を鉛筆でスラスラと書き出します。
「スゲー、これが絶対音感という能力か!」
なんと、再生されたカセットテープをほとんど一時停止することなく、あっという間にコード進行を採ってしまいました。
「できたよ、聴こえたテンションは一応書いといたけど、よく聴くともっと違う音が入ってるかもしれない。家で確認してみて」って
家で確認できるくらいなら頼んだりはしません(笑)。
この時以来、練習の合間に色々話しかけるようになりましたし、何曲か採譜を頼んだような記憶があります。
ある時、どこまで聴き分けられるか確かめたくなり、レギュラー練習の合間にピアノで僕が適当に10本指でガーンと鳴らして音を聴き取れるか試してみた事があります。低い音から順番に全部聞き取ることができ、目が点になってしまったことがとても印象に残っています。
「自分にも身につけることができないものか」と色々な本で調べてみましたが、この年では手遅れと知ってがっかりしました。
この能力、ライトでもう一人D年のピアニスト、久野さんが持っていることも後になって知りました。
「人の声が音程に聴こえる時がある」
「パチンコ屋に入れない。気が狂ってしまう」
「乾杯!とグラスを合わせる音が音程に聴こえる」等々
飲みに行った時にお二人からこんな話を聞いて、「大変だなー」と思う反面大変うらやましく思いました。
大学1年で初めての定期試験も終わり、夏合宿の事を耳にするようになりました。この時点での僕の気持ちはこうですね。
「なんとか夏まで持ったな・・・・。」